東京スカイツリーの工事が始まる前の2008年春に墨田区押上へ越してきて、それからおよそ4年間、建設地に隣接する区画の一住人として工事の様子を毎日眺めてきましたが、2011年秋にはタワークレーンもすべて解体されて、塔体自体の建設工事はほぼ終了しました。そろそろ、次の引っ越しの時期がやってきたようです。
今住んでいる部屋をもうすぐ引き払うという話をすると、「スカイツリーが終わったら、今度は何の定点観測をやるの」とよく聞かれます。でも、私はもともとタワーやビルの熱心なファンだったわけではないですし、長期にわたって何かひとつの対象を追いかけるなんてことは今回が初めてでした。ですから、次のテーマ等は特に考えておらず、また元の平穏な日常が戻ってくるだけのことなのだと思います。
そもそも、少なくともここ数年のうちに、スカイツリーよりエキサイティングな現場が日本国内に出現するとは思えません。高いところから写真を撮りたくてヘリコプターを借りたり、鉄骨の出荷シーンを見たくて深夜に遠くの工場まで出かけたり、タワーよりも高いビルがあるなんてショックを受けてドバイまで飛んでいったりと、こんなおかしな経験につながる工事現場なんて、ほかにあるわけがないんです。
4年間建設プロセスを見続けるのは、それはそれで大変なんですが、見続けること自体には、そんなに大した意味はなかったと思うんです。それよりも、私が前述のようなちょっとおかしな深みへはまってしまったみたいに、普段の日常のちょっと先にある何かに手が届いたとか、生活がちょっと変わるきっかけになったとか、そういう経験をした人はきっと少なくない--そして、その経験を大勢の人たちで共有したこと自体--が、634メートルなんていう超巨大建設プロジェクトの本当の醍醐味だったのではないかと、今になって思うようになってきました。
だから、スカイツリーの工事が終わったからといって「スカイツリーの次は?」なんて野暮なことは聞かないでください。この先、3本目の東京タワーが建つことはたぶんないのですから。スカイツリーマニアの皆さんや私がすべきは、次のタワーを探すことではなくて、ここで得たそのマニアックだけどエレガントなセンスを駆使して、一見退屈に見える日常の生活も、エキサイティングな現場に変えていくことではないでしょうか。そっちのほうがよっぽど「建設的」だとは思いませんか?
